2015年6月6日土曜日

『猟奇歌』 (夢野久作)

たぶん多くの人が覚えているだろうが、2008年6月8日、秋葉原通り魔事件が起きた。

昼日中、加藤某なる青年が秋葉原の交差点へ、2トントラックで突っ込み、横断中の人々を無差別に殺傷した事件であった。

その事件の数日後、或る作家が或る詩人の詩を当地の新聞で紹介していた。その詩は、まるで此の事件を予告していた観のある詩であった。私は其の詩をみて、詩人の感性の生々しさに驚いたものだった。

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紹介されていた其の詩は夢野久作の『猟奇歌』だと記憶していたつもりだったが、今回、この日記を書くに当たって、青空文庫で『猟奇歌』を調べてみた。しかし私が記憶しているような詩は見つからなかった。

たしか、トラックで人ごみに突っ込み、その現場が血潮に染まる・・・というような詩と記憶していたが、どうも私の勘違いらしい。

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夢野久作の『猟奇歌』は特異な歌ばかりで、まさに猟奇だが、私は此の歌集は嫌いではない。人によっては眉をひそめるかも知れない。彼の歌の詩を二つ転記してみよう。

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殺すくらゐ 何でもない
と思ひつゝ人ごみの中を
濶歩して行く

ある名をば 叮嚀ていねいに書き
ていねいに 抹殺をして
焼きすてる心

ある女の写真の眼玉にペン先の
赤いインキを
注射して見る

この夫人をくびり殺して
捕はれてみたし
と思ふ応接間かな

わが胸に邪悪の森あり
時折りに
啄木鳥の来てたゝきやまずも

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何者か殺し度い気持ち
たゞひとり
アハ/\/\と高笑ひする

屠殺所に
暗く音なく血が垂れる
真昼のやうな満月の下

風の音が高まれば
又思ひ出す
溝に棄てゝ来た短刀と髪毛

殺しても/\まだ飽き足らぬ
憎い彼女の
横頬のほくろ

日が照れば
子供等は歌を唄ひ出す
俺は腕を組んで
反逆を思ふ

わるいもの見たと思うて
立ち帰る 彼女の室の
むしられた蝶

わが心狂ひ得ぬこそ悲しけれ
狂へと責むる
鞭をながめて

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『猟奇歌』は全て、このように、魔性とでも言うべき、心の闇を呟いたものばかりである。
興味ある人は青空文庫で読めるから見たらいい。