2015年6月29日月曜日

『明暗』 (夏目漱石)

『明暗』と『続明暗』(水原美苗著)を読んだ。

実は私は何十年か前にも一度読んだのだが、断片しか覚えていず、今回初めて読んだと言ってもよい。

私は漱石の小説は『門』がお気に入りだが、この『明暗』も面白かったという記億は残っていた。そこで再読したのだ。

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『明暗』は五六名の登場人物しか出てこないが、その人物たちの心理描写は綿密極まっている。
心理というモノを解剖して、もし心理に『臓器』があるとしたならば、解剖後其の『臓器』を取り出し読者に綿々と解説している観が此の小説にはある。

そういう心理描写に興味のない人は此れほど退屈な小説はないだろう。

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また此の小説『明暗』は一種のミステリー、あるいは謎解きの読みものとして読める。
私は謎解きとして読んだ。

小説に起承転結があるとすれば、漱石の『明暗』は、『さぁ、その謎は何だろう』という『転』の処で突然、終わっている。漱石が死んでしまって未完になったからだ。

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その後を引き継いだのが、『続明暗』(水原美苗著)。

その謎は一応、解かれるのだが、果たして其の解が漱石の解か否かは、もはや永久に分からない。そして水原美苗女史の解にも、やはり謎が残存しているように私には見える。

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『則天去私』は晩年の漱石の理想とする処だそうだが、ネットで調べると以下のように書いているサイトがある。
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小さな私にとらわれず、身を天地自然にゆだねて生きて行くこと。「則天」は天地自然の法則や普遍的な妥当性に従うこと。「去私」は私心を捨て去ること。
夏目漱石そうせきが晩年に理想とした境地を表した言葉で、宗教的な悟りを意味するとも、漱石の文学観とも解されている。「天てんに則のっとり私わたくしを去さる」と訓読する。
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水原美苗女史の解は此の『則天去私』に依っているようだが、それに該当するのは私は津田の妻『お延』だけに見える。

水原美苗女史の解は、漱石は『お延』に『則天去私』を委ねたように見える。

津田由雄他の登場者は相変わらず『我』にとらわれたエゴイズムのみで、その後の人生を生き続けるように見える。

特に津田由雄のその後の人生は、お先真っ暗であるように見える。

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あるいは漱石の解答も、そうだったかも知れない。

深く考えず、誰も普通に読めば、一見、『清子』に漱石は『則天去私』を見ているように思うだろうが、たぶん其れは間違いだろう。

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結局、漱石が提示した謎は、『続明暗』(水原美苗著)でも解かれなかったように私には思える。
誰か『続続明暗』を書いて正解を提示する人はいないだろうか? 

しかし漱石が亡くなった以上、其れは無理な注文だろう。

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いずれにせよ、この『明暗』という小説は、少し異質な未解決なミステリー小説だと私は思っている。